ホームへ戻る/将棋図書館トップへ/勝手に考察文表紙へ

(12)ソフトが指すタイトル戦最終盤

(1)はじめに

昨年、東大将棋5や激指2が発売され、ソフトもここ2〜3年でずいぶん強くなってきた。そして、つい最近、東大将棋6も発売されて、その検証もした(東大将棋6の実力)。
5と6では、最強の棋力にそれほど大きな違いは分からなかったが、それでも終盤が、(近年のソフトは)非常に強くなったことだけは確かである。

ところで、以前から私は、このホームページで、タイトル戦の速報感想を書いている。これは、タイトル戦の実況に合わせて、10分程度で書いているだけなので、多分に間違った判断とかもある訳であるが、実を言うと、今年の名人戦から、ソフトを参考に使うようになったのである。今進行している第44期王位戦も、東大将棋5を起動させて解説していた。

もっとも、"使っている"と言っても、その形勢判断を当てにすることはない。ソフトの形勢判断は、人間にすれば、アマチュア三段以下だからだ。強さは、四段以上なのに、この辺りはちょっと不思議である。しかし、形勢判断の表示を見ていると、どうも自分の方(ソフト側)を有利に思ってしまう癖があるらしい(なんか人間的で面白いところではあるが)。また、駒の損得を重視するため、寄せのあるところでも、形勢判断を誤ることがある。なお、形勢判断のみに限って言えば、激指2の方はアマ三段並み、東大5及び6は、それよりやや劣ると思う。

その形勢判断を当てにしないで、どう使っているかと言うと、注目したのは、その終盤力だ。

タイトル戦の終盤になった時、どちらが良いのか判断に迷う時がある。そんな時は、その局面から自分が東大5(これからは東大6)と対戦してみるのである。

たとえば、まず先手を持って指してみる。先手でソフトに勝てたら、次は、後手。後手でも東大5のマスターに勝てるようなら、その局面は互角と判断するのである。ソフトの終盤力は、五段近くあるので、片方を持って、負けることが良くある。その時は、自分とソフトの両方が勝った方が、優勢なのだと判断できる訳だ。

こうやって、王位戦の第1局から第3局の終盤では、自分の判断に自信を持たせてきたのである。だが、第4局は、ライブを見ていたため、ソフトを起動させている暇がなかった。と同時に、この終盤戦は、ものすごいものであった。

ミニ感想の9月分」に、この第4局の終盤の変化を書いておいたので見て欲しいのだが、では、その局面で、東大5や東大6なら、どう指すであろうか?と言うのが、ここでのテーマである。

(2)アマ有段者の指し手を検証する


左図は、王位戦第4局の終盤、134手目までの局面である。

ここから、ソフトはどう指すのか、と言うのがテーマだが、では、人間だったら、有段者だったら、どういう判断を下すであろうか、と言うことを先に試してみたい。なお、前もって、正解手は、変化を含め、ミニ感想を参照しておいて欲しい。

実は、この局面を、入間将棋センターの常連に出題したのである。

「この局面から、どちらを持っても良いから、(私が反対側を持って)勝ち切れれば、賞品を出す」ことにしたのだ。もちろん、王位戦の手順をすべて知っている人には、ご遠慮いただいた。

しかし、羽生が勝ったと言うことだけは、知っている人が多かったため、途中から、「後手が羽生四冠で、そちらが勝っているけど、どちらを持ちますか?」と言う風に変えた。そのため、ほとんどの人は、勝った羽生四冠の方を持つことになったが、それなのに、正解手をなぞれた人は、皆無だった。それほど難解な勝ち手順なのである。

まず、有段者が指した手を見ていこう(全て、後手を持ち、本譜をまったく知らない人たち/時間制限はしてません)。

私の▲7二とに対し、△同馬と取った人と、△同銀と取った人がほぼ半数だった。
そして、△同馬と取った人たちは、以下▲7一銀△同馬▲8三香成△同玉▲7五桂△7二玉▲8三金△6二玉▲7一龍△同玉▲6三桂不成△6二玉▲7一銀△6三玉▲7二角△7四玉▲5二馬までのとん死筋に入った人がほとんどだった(T二段・H三段・K四段・H四段)。正直、30秒将棋なら私もこのとん死筋に入ってしまうと思う。

△7二同馬と取った人の中には、▲7一銀に対し△9二玉と逃げた人もいた。しかし、これも▲8二金△9三玉▲8五桂△8四玉▲7三桂成△同玉▲7二金以下のとん死になった(O四段)。

▲7二とを△同銀と取った人は、どうしたか。
以下▲7一銀△9二玉▲7七玉までは、本手順。ここで、ほとんどの人は、△7九金と取ったが、一人だけ、△5七龍とした人がいた。しかし、これは、▲6八金△6六銀▲7八玉△7七歩▲同桂で詰まない。この後、△同銀成▲同金△5八龍▲6八金までで投了した(K二段)。

本手順を進めた人たちはどうしたか。
▲7七玉に△7九金。以下▲8二金△同馬▲同銀成△同玉▲7一角。この▲7一角に△7三玉と逃げた人が二人いた。これは、▲7四歩△同玉▲5二馬△6三金▲6六桂△7三玉▲5一馬と進み、とん死した(O二段・K四段)。

▲7一角に△9二玉と逃げた人が四人いた(ここまで羽生四冠と同じ手を指したという訳だ)。そして、▲5六馬という詰めろ逃れの詰めろに、四人とも△7四歩と打つ。(本当は、手順を知っているのでは?と言う疑いの目を向けたが)、▲同馬に、二人は、△7三銀、△7三金と受けてしまった。これは、ほとんど受けになっておらず、▲8四桂△同銀(金)▲同香で後手に勝ちはない(K二段・N三段)。

△7四歩▲同馬に、本手順と同じく△7八龍▲6六玉まで進めた人が一人だけいた。もう一人は、△6八銀と打った。以下▲6六玉△5七龍▲7五玉△5五龍と進み▲6五桂と合駒をさせられる。桂を使ってしまったため(▲8四桂がなくなったと言う訳で)、△7三歩と打ったが、今度は玉が7五まで出ているため、▲8二角成△同玉▲8三香成△同銀▲同馬△同玉▲8一龍で詰みとなった(実際は、単に▲8三香成で早い)(Y四段)。

△7八龍▲6六玉まで進めたのは、すでに四段の実力のあるH三段だけだった。この後、羽生四冠が指したように△6五銀▲同銀△同歩▲同馬に△7四銀まで指せたら、仮にこの後、間違えても、賞品をあげようと思っていたら、ここで間違えた。
△6五銀ではなく、△5五銀と打ってしまった。これは、▲同玉なら詰みだが、▲7五玉と上がられて詰まない。以下△7三銀打と頑張ったが、▲8三香成△同銀に▲9三角成と言う妙手があり、△同桂(△同玉でも▲8五桂以下詰み)▲8三馬△同玉▲8一龍までで投了となった。

人間が指す場合、仮に有段者であっても、後手を持って、いかに勝ちきるのが大変かと言うことが分かると思う。
次では、こうした人間、有段者の指し手を前提にして、最新のソフトがどのような手を指したか検証していきたい。

(3)ソフトが指す王位戦最終盤

この局面からの指し手を検証するのは、東大将棋5のマスター(無制限)と持時間999分切れ負け、同じく東大将棋6のマスター(無制限)と持時間999分切れ負け。そして、激指2(四段)を試してみた。また、念のため、二回行い、同じ手順をなぞることも確認しておいた(但し、実際に対局したところ、無制限と持時間999分では、今回、全く同じ手順をとった為、以下には、東大5、東大6、激指2としか載せていない)。


局面再掲。左図からコンピュータが後手を持ってスタートだ(先手は私)。

まず、東大6の指した手順。(カッコ内はソフトの形勢判断)

▲7二と△同銀(先手優勢)▲7一銀△9二玉(互角)▲7七玉△7九金(以下最後まで後手勝勢)▲8二金△同馬▲同銀成△同玉▲7一角△9二玉▲5六馬△7八龍▲6六玉△6五銀▲同銀△同歩▲同馬△7四銀▲8三香成△同玉▲7五桂△同龍▲同馬△同銀▲5六玉△8二桂▲5三角成△6四銀打まで東大6優勢。

次に東大5の指した手順。

▲7二と△同銀(後手有利)▲7一銀△9二玉(互角)▲7七玉△7九金(後手勝勢)▲8二金△同馬▲同銀成△同玉▲7一角△9二玉▲5六馬△6五銀▲8三香成△同玉▲6五銀△同歩▲同馬△7四歩(後手優勢)▲7五桂△7三玉(先手勝勢)▲6二角成△同玉▲6三銀△同銀▲同桂成△同玉▲6一龍△7三玉▲6四馬△8三玉▲8一龍まで東大5投了。

最後に激指2の指した手順。

▲7二と△同銀▲7一銀△9二玉▲7七玉△7九金▲8二金△同馬▲同銀成△同玉▲7一角△9二玉▲5六馬△6五銀▲8三香成△同玉▲6五銀△同歩▲同馬△7四歩▲7五桂△8四玉▲6二角成(まだ後手勝勢)△7三桂▲8五銀(ここで先手勝ちの表示)△9五玉▲9六歩△8五玉▲8六歩△8四玉▲8五歩△同玉▲7六馬△8四玉▲8五歩△9三玉▲9一龍△9二金▲7一馬△8二歩▲同馬まで激指2投了。

いろいろと説明すべきところが多いが、どのソフトもさすがにコンピュータ、簡単には、とん死筋に入らない。

まず、東大6から。これは、ほとんど羽生四冠の指した手を踏襲した。△7四歩は打たずに、△7八龍と回ったが、これでもおそらく、先手に変化のしようがなく同じように進むのだと思う(△6五銀に▲5五玉とかわすのは、△5四金▲4六玉に△4四銀と打たれてしまう)。つまり、同じように進むのなら、△7四歩は打たない方が一歩得だが、この局面では、歩損はほとんど関係なく、△7四歩の意味合いとしては、時間稼ぎにもなり、損のない実戦的な手筋と言えるだろう。
結局、東大6は、△7五同銀まで同じように進めた。しかし、最後、▲5六玉に△8二桂と打って羽生四冠の手と分かれた。△8二桂は後でも説明するが、あまり良い手ではない。▲5三角成△6四銀打までで、一応後手が優勢なので、ここまでとしたが、実戦は、入玉して逆転している(但し、同じ棋力なら持将棋でも後手勝ちと判断した)。

次に東大5と激指2。これは、どちらも▲5六馬に△6五銀と打ってきた。これは、▲同銀に△7八龍なら、本手順に戻るのだが、東大5の時、一回、▲同銀と指したら、△7五銀!と打ってきた(なお、激指2にも同じこと(▲6五同銀)を試して見たところ、△同歩と取ったため、▲8三香成△同玉▲6五馬△7四歩▲7五桂と進み、激指2のとん死)。この△7五銀は、検討でも出てこなかった好手だ。△7五金なら▲8三香成から即詰みだが、銀なら詰まない。但し、▲8三香成△同銀(△同玉は詰み)▲8四桂△同銀引として、先手の詰めろを解除する手がある。
結局、出来るだけ本手順に戻すと言う意味で、▲8三香成と指して見た。△同玉▲6五銀に△7八龍なら、本手順に戻るからである。ところが、東大5も激指2も、どちらも、▲6五銀を△同歩と取ってしまい、▲同馬に△7四歩と打ってとん死してしまった。


さて、上の手順だけを見れば、東大6がもっとも強いようにも見える。しかし、東大5と激指2の失敗は、△6五銀と打って、さらに△同歩と取ってしまったことだけなので、さらにこの後も検証してみた。

つまり、左の図である。ここから、どのようにソフトが寄せ切るかを見たのである。
その結果、東大6、東大5、激指2の全てが、同じ手順で寄せた。

△7八龍▲6六玉△6五銀▲同銀△同歩▲同馬△7四銀▲8三香成△同玉▲7五桂△同龍▲同馬△同銀▲5六玉と言う手順だ。

そして、最後の▲5六玉に、羽生四冠は、△5四金と詰めろ逃れの詰めろ(必死)をかけて勝った。ところが、ここでソフトの指し手はいろいろだった。

まず、東大6は、△8二桂と打った。そして、東大5は△5四銀と打ち、激指2は△5四角だった。なお、大盤解説の森下八段は、△6四角で後手勝ちと言っていて、実は私の第一感も△6四角だった。

実際問題としては、ここでは、どうやっても後手の勝ちなのだと思う。しかし、羽生四冠の△5四金を始め、△5四銀、△5四角とも、詰めろ逃れの詰めろなのに比べると、東大6の△8二桂は、受けただけで、詰めろをかけてはいない。これでも、後手の勝ちは、動かないと思うが、▲5三角成と成られ、ちょっと入玉を心配する展開になるかもしれない(実際、私に入玉された)。
つまり、最後の一手に関しては、東大5や激指2の方が良かったと言う訳だ。

(4)結論

さて、今回の問題に対するソフトの指し手。非常に正確だが、実を言うと、ややソフトにとっては有利な問題だったかな、と言う気がする。と言うのは、負けになる変化が、ほとんど、とん死など、ソフトが読むには得意分野だったからだ。

仮に負けになる変化が、詰まされるのではなく、不利になる変化だけだったら、もっと人間の有段者も良い勝負をしたと思う。とは言え、どのソフトも終盤に関しては、これだけ正確に指すと言うことが良く分かった。実際、ソフトと指していると、終盤、驚くくらい読み筋が同じになるのだ。

135手目からの対局では、結果として、東大6が勝ち切り(最後優勢まで)、東大5と激指2は勝ち切れなかった。しかし、164手目羽生四冠が△5四金と打ったところの指し手としては、東大6が一番良くない手(疑問手とまでは言い切れない)を指したと思う。

これ一つで結論を出すことはできないが、どのソフトも、優劣を付けられないくらい接近した終盤力を持っていると考えて良いだろう。前回「東大将棋6の実力」の中で私は、「終盤は、東大6の方が(東大5に比べ)僅かに緩い手を指す」と言っているが、それは、対局している時、△8二桂のような手を何度か見ているからかもしれない。しかし、△7八龍から△7四銀までは東大6のみが完璧だった。これを見る限り、東大6の方が緩いとは言い切れないようだ。

実際には、こういった終盤での指し手をいくつも検証してみないと、どちらが強いとか、棋力などのはっきりした結論は出せないが、これ一つでも相当な時間がかかってしまったため、さらなる検証をする時間は持てそうにない。しかし、今回の実験で、(ソフトにとって有利な問題だったとは言え)ソフトの終盤力が、アマ五段に匹敵する力を持っていることは証明できたと思う。いずれ機会があったら、またこういった問題を作成し、ソフトの力を試してみたいと思っている。

2003年09月04日作成

ホームへ戻る/将棋図書館トップへ/勝手に考察文表紙へ