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(15)東大将棋、定跡道場完結編の内容

2004年3月25日、東大将棋、定跡道場完結編(以下『定跡道場』)が発売された。ここでは、その『定跡道場』の内容について見ていこうと思う。

---目次---

(1)はじめに
(2)定跡講座「振り飛車」編
(3)定跡講座「居飛車」編
(4)定跡講座「駒落ち」編
(5)その他の機能
(6)全体的な感想

参考:MYCOM GAME WEB/将棋ソフトのページ/アップデートモジュール(販売後のバグ等を修正)

(1)はじめに

私が、『定跡道場』シリーズのソフトを最初に見たのは、ずいぶん遅く、『居飛車道場』が、最初である。それまでは、定跡などは、本で十分と思っていたからだが、この『居飛車道場』を見て、その認識が甘かったことを思い知らされた。つまり、これほど詳しいとは思っていなかったのである。

こんなに詳しいのなら、辞書代わりに使えるので、『振り飛車道場』も買っておけば良かったと思ったものだが、その時点ですでに、発売から1年以上経っており、せっかくなら、次の『振り飛車道場』を買おうと発売を楽しみにしていたのである。

ところが、発売されたのは、『振り飛車道場』ではなく、なんと、居飛車も振り飛車も、そして、駒落ち定跡まで網羅した、『定跡道場完結編』だった。なので、この発売の発表を見てから、手に入れるまで、ずいぶん楽しみにしていた。

さて、この『定跡道場』も、他のソフトと同じように、コンピュータと対局も出来るし、詰将棋を解かせるなど、様々な機能もある。しかし、今回、私が、注目しているのは、何と言っても、定跡講座であるので、ここでは、その定跡講座について詳しく見ていこうと思う。

と言っても、非常に詳しいので、これを一つ一つ見ていたら、何年かかるか分からない。そこで、この定跡講座の中の、この部分を見てみた、と言うことをあらかじめここにお断りしておきたい。

まず、振り飛車編。これは、4五歩早仕掛けの周辺を、書籍版の「四間飛車道場」を見ながら、検討してみた。また、それ以外の定跡についても、簡単ではあるが、内容を見てみた。

居飛車編では、私自身、定跡について詳しくないので、以前、『居飛車道場』の時に内容を見た、相横歩取りについて、その時と内容が変わっているかどうかを検討してみた。また、最新の部分では、やはり8五飛戦法を見ない訳にはいかないので、この部分も、一変化についてだけであるが、『居飛車道場』との違いを調べた。

そして、最後は、駒落ち定跡。これは、所司六段の「駒落ち定跡」の本を参考にしながら、私の記憶と合わせ、六枚落ち二枚落ちを見た。

できるだけ伝えたいとは思うが、あくまで、『定跡道場』の一部しか見ていないので、参考程度に、その雰囲気を受け取って欲しいと思う。

(2)定跡講座「振り飛車」編

まずは、定跡選択の画面を載せておきたい(この下にあるのは画像なので、カーソルやボタンは動きません)。


これは、『居飛車道場』と同じような作りである。

私が見たのは、▲4五歩早仕掛けのページだが、第1部のミレニアム、居飛車穴熊や第7部の中飛車の中にあるゴキゲン中飛車などの方が、より詳しく解説されているように思う。


最新定跡の方がより詳しく解説されているため、定跡通であればあるほど、このソフトの持つ価値が分かるとも言えそうだ。



さて、その▲4五歩早仕掛けであるが、▲2四歩を△同角と取り、▲9五歩と突く郷田新手のあたりから、詳しく見たのだが、この部分についても非常に詳細であった。

解説部分においては、本の「四間飛車道場」に書いてあることで、載っていない変化もあるが、本に載っていない変化が、このソフトの方に載っているものもある。たとえば、郷田新手の後、△4一飛打に対し、▲3三桂と打つが、この手に対し、△5一飛の一手と今までは思われていて、本にもその手しかない。しかし、この『定跡道場』には、△同銀の変化が載せられていて、以下▲同角成△4八飛成▲同銀△2一飛となり、「考えられる変化。いい勝負か?」と書かれている。

こうした新しい変化、考え方が随所に取り入れられていて、最新定跡を知りたい人には、手に入れておきたい一品となっているようだ。

ただ、反面、定跡をまったく知らない人や、初心者が、このソフトで定跡の勉強をしようとするのはどうかと思う。たとえば、右四間のところも見てみたが、これも、もっとも難解な変化、居飛穴右四間や右四間に対する急戦、▲1七桂と跳ねる変化など詳しく載せられているが、逆に、もっとも基本的な変化である▲3七桂から仕掛ける普通の急戦右四間については、一通りの変化があるだけで、解説も詳しくはない。

勉強するには、こうした基本から一つ一つ積み重ねて行く必要がある。そういう意味で、初心者が、定跡の勉強用に使うには、ちょっと難しいと思う訳で、やはりこのソフトの基本的な使い方は、『居飛車道場』と同じで、気になった時、変化を調べる「辞書」代わりだと思う(本と併用して勉強するには有用)。

(3)定跡講座「居飛車」編


次は、居飛車編である

まず、最初は、『居飛車道場』の時に調べた、相横歩取りについて見てみた。

ところが、やはりこの辺りのすでに完成されている手順については、それほど『居飛車道場』と変わってはいなかった。

ただ、コメントは、多くなっているし、その解説欄も改善されているので、『居飛車道場』に比べると、かなり読みやすく、分かりやすくなっていると言える。


これだけでは、あまり違いが分からず、結局、最新定跡となると、横歩取り8五飛を避けて通れないので、これについても見てみることにした。

もっとも、私自身、定跡に詳しくないので、今、何が最新なのか、良く分からない。そこで、今年の棋王戦を参考にしてみることにした。つまり、これを持っていれば、最新のタイトル戦の鑑賞が出来るかどうかと言うことだ。

まず、先日行われた棋王戦第3局の棋譜をここに載せておきたい(コピーして、ソフトに貼り付けて再現して下さい)。

ファイル名:kiou2004-3
先手:谷川王位
後手:丸山棋王

▲2六歩 △3四歩 ▲7六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △3三角 ▲3六飛 △2二銀▲8七歩 △8五飛 ▲2六飛 △4一玉 ▲6八玉 △6二銀▲3八銀 △5一金 ▲3六歩 △7四歩 ▲3七桂 △7三桂▲4六歩 △7五歩 ▲3三角成 △同 桂 ▲3五歩 △2五歩▲1六飛 △8四飛 ▲3四歩 △同 飛 ▲5六角 △5四飛▲3四歩 △2八角 ▲1八香 △1九角成 ▲3三歩成 △同 銀▲4五角 △9四飛 ▲7五歩 △1四歩 ▲7四桂 △2四銀▲3三歩 △2二金 ▲2三歩 △2一金 ▲6二桂成 △同 金▲3二銀 △5二玉 ▲2一銀成 △1五歩 ▲5六角 △5四飛▲3二歩成 △1六歩 ▲8三角成 △7二歩 ▲1一成銀 △6五桂打▲5六香 △3四飛 ▲7七桂 △同桂成 ▲同 玉 △6五桂打▲8八玉 △1八馬 ▲7四歩 △8五桂 ▲7三歩成 △7七桂左成▲同 金 △同桂成 ▲同 玉 △7五香 ▲6八玉 △8九飛▲4四桂 △同 飛 ▲6二と △同 玉 ▲5三香成 △同 玉▲6五桂 △6四玉 ▲7四金 △6五玉 ▲7五金 △5四玉▲5五金まで103手で先手の勝ち

そして、この進行を『定跡道場』で追ってみた(左の図が、『定跡道場』の棋譜。米印は、コメントのある場所。その右のマークが、分岐棋譜のあるところ)。

すると、49手目の▲4五角までは同じ進行である。ここで、初めて、後手が、△9四飛と変化したのが分かる。以下は、未知の局面となる訳だが、ここまで詳細に変化があるのは、ありがたい。

もっとも、『居飛車道場』にも、ほぼ同じ内容が載せられている。まだ、一年しか経っていないのだから、これは当然かもしれないが、『居飛車道場』の内容だけで、対振り飛車は必要なく、十分満足している人には、あえて完結編を買う必要はないのかもしれないと感じた。

ところで、こうした最新の変化は、本では何か扱っているのだろうか?私は、この部分についての東大将棋ブックスは、持っていないので、浅川書房の「最前線物語」を見てみた。

すると何と、44手目の△2八角の局面までしか載っておらず、その局面を「飛車の効率は後手よし。しかし桂損は確定」と解説されているだけであった。
こうしてみると、『居飛車道場』や『定跡道場』で扱っている変化が、いかに多いかと言うことを改めて知らされた感じだ。

さて、変化こそ多いが、今まで見たところでは、『居飛車道場』とそれほど変わっていないのかな、と思っていた。が、一応、念のため、定跡の選択画面をそれぞれ比べて見た。すると、第1部の横歩取り△3三角戦法以外のところは、まったく同じ章分けであったが、第1部のみ『居飛車道場』の時は、9章だったのが、今度の『定跡道場』になって12章に増えていた。

増えていたのは、△7四歩早突き型の▲5八玉型と▲6八玉型、さらに角交換▲7七桂型である。これは、おそらく最近現れて来た変化なのだろう。全体的には、『居飛車道場』の内容を踏襲しているが、一部このように改良、追加されている変化もあるということをお知らせしておきたい。

(4)定跡講座「駒落ち」編

最後に駒落ち編である。

駒落ちは、八枚落ちから、六枚落ち、四枚落ち、二枚落ち、飛香落ち、飛車落ち、角落ち、香落ちと、これは、書籍版「駒落ち定跡」とまったく同じ分け方である。

となると、書いている人も、所司六段であるし、この本の内容や変化が、そのまま載っているのかな、と思ってしまう(実際に、この本の内容が、そのまま載っていれば、十分とも言える)。

そこで、まず、六枚落ちを見てみた。
私自身も、六枚落ちについては、ホームページにこの本の変化を参考に、載せているが、ほぼ同じ手順が、この『定跡道場』にも載せられていた。

しかし、1筋攻めについて見ていたら、本には、載っていない手順(先に飛車先を決める手順)についても載っていた。この辺りは、本の出版後に、改良されたところかもしれない。

二枚落ちについても、ほぼ本を踏襲していると言って良い。但し、本に載っているにもかかわらず、解説にないところや、本にない変化も定跡道場にあったりと、やはり改良されていると見て良いと思う。特に感心したのは、本で、「これにて下手良し」とか「下手必勝」で打ち切られているところを、さらにその後の指し方まで載せられており、もっと局面の分かりやすいところまで手順が示されていることである。

では、このソフトが、駒落ち定跡の本の代わりになるか、と言うと、これは微妙だ。

確かに、『居飛車道場』に比べると、解説も多くなり、窓も大きく、見易くなってはいるのだが、本に比べたら、やはり、解説欄が少ないのが気になる。一方、「これにて良し」後の手順まで書かれていたり、新しい指し方も載せられていたりするので、本以上の部分もたくさんある。

結局、駒落ちに関しては、指す機会があるのなら、本と併用して勉強するのが一番だが、両方購入は出来ないと言うなら、駒落ちの箇所しか必要ないなら、本のみ、平手の定跡も必要とするなら、ソフトのみと言う購入の仕方かなと思う。

(5)その他の機能

定跡講座以外の主な機能を見てみよう。

パッケージには、次のように載っている(定跡講座以外)。

定跡道場・・・振り飛車、居飛車、駒落ちの定跡328局面から東大将棋と対局。
定跡次の一手・・・定跡とされている次の一手が出題され、習得に最適。
レーティング戦・・・対局結果で実力を数値化。
フリー対局・・・レベルは長考派〜よちよちまで10段階。
棋譜解析・・・指し手の善悪、形勢の推移等を表示。
編集詰将棋・・・盤面編集と詰みチェック機能を搭載。

まず、定跡講座の次に気になるのは、ソフトの棋力自体が、上がっているのか、と言うことである。しかし、あまり時間も取れなかったので、今回は、『定跡道場』と『東大将棋6』との対戦を4局やってみただけに過ぎない。

定跡道場と東大将棋6との対局棋譜

最初から先後二回ずつしかやらない予定で、これで、指し手が、どの程度かを見るつもりだった。

その結果は、3勝1敗と『定跡道場』が勝ち越すこととなった。内容を見てみると、中盤は、いずれも『定跡道場』が押していて、一局目は逆転され、二、三、四局目は、優勢を維持し、中には、終盤かなり紛れたのもあるが、何とか押し切ったという感じで、これだけを見れば、やや中盤に改良が加えられているのかな、と言った印象を持つ。

と言っても、たったこれだけで結論を出すわけにもいかないので、あくまで参考程度に、と言うことで。

むしろ、驚いたのは、対局後に出てくる、棋譜解析・感想の画面である。これが、従来より非常に見易くなった。その画面も、対局棋譜のページに載せておいたので、見て欲しい。

また、まだ試してないのだが、フリー対局には、元来、最強だった「マスター」の上に、「長考派」と言うのも出来ていた。いずれ、時間があったら、これも試してみたいと思う。


定跡の局面から実戦を指すことの出来る「定跡道場」については、東大将棋6にもあった機能だが、この局面が、非常に多くなった(328局面!)。ソフトは、序盤の感覚が悪いので、ある意味、途中の定跡局面から指してみるのは、大変面白いと思う。今回は、駒落ちの局面も入ってきたので、駒落ちの定跡を勉強しながら、対局をしたい人にもこれは役に立ちそうだ。

次の一手が出題される「定跡次の一手」と言う機能は、『東大将棋6』にもなければ、『居飛車道場』にもない、今回の新機能である。
私自身も、何回かやってみたが、結構間違える。ランキングまで出るし、出題場所も、振り飛車、居飛車、駒落ちと分けて出題させることも出来るので、勉強になる面白い機能だと思う。

でも、せっかくなら、答え終えた後、その局面での解説が出るか、その局面に飛べるようになっていれば、なお良いのに、と感じた。また、やった人のランキングだけでなく、時間と正答率や、難易度も選べるようにして、「定跡○級」とか「定跡○段」とか出るようになれば、なお面白そうだ。この辺りは、いろいろ改良できそうな所で、この機能自体のアイデアは買いたいが、もうちょっと勉強の役に立つような作りにして欲しかったと言う不満もある。

「棋譜解析」については、以前のものに比べ、ずっと見易くなった。「編集詰将棋」については、まだ解かせるスピードなどは、試していないのだが、『東大将棋6』や『居飛車道場』とほぼ同じような機能になっているらしい。

(6)全体的な感想

さて、今回の「定跡道場」についての感想をまとめてみよう。

今回は、手に入れる前から、期待が非常に高かった。期待が高ければ高いほど、それに見合わないと、がっかりするものだが、この『定跡道場』は、その期待に見合うものだったと言っておこう。

と言うのも、一部、不満もあれば、期待以上のものもあるからだ。たとえば、変化については、玉頭銀について、もう少し詳しく載せてもらいたかった、とか、奇襲戦法なども、基本的なものは、取り上げてもらいたかったとか、いろいろ不満はある。

一方、最新定跡については、詳し過ぎるほど、詳しい変化が載せられている。また、途中局面から指せる定跡道場の機能も、次の一手の機能も、期待以上のものであったと言えるだろう。

つまり、もっと改良してもらいたい点はあるものの、全体としてみれば、高い期待に十分応えていると言う訳だ。

その改良してもらいたい点について、感じたことをいくつかあげておきたい。

(1)定跡をさらに多く、詳しく・・・これは、ソフトをさらに強くと言うのと同じように、際限のない要求かもしれない。しかし、たぶんこの要求は、いつまでたっても、変わらないだろう。

(2)盤面検索を可能に・・・定跡を調べる時に、「この変化は載っているのかな」と思っても、選択画面からしか選択できないと、なかなか目的の画面まで到達できないと言うことになる。今回、以前、質問掲示板にあった、三間飛車の奇手(歩頭に飛び出す△8六角)を調べたが、見つからなかった。また、この時、盤面編集で、一部だけ局面を作って検索できれば、便利なのに、と感じた訳だ。

(3)定跡次の一手に解説とレベル分けを・・・勉強に役立つ次の一手と言うアイデアはたいへん面白いものだ。ただ、残念ながら、単に正答を競うだけで、終わるとすぐに画面が消えてしまう。せっかくなら、その問題のある定跡手順のところへリンクしていたり、詳しい解説が欲しい。
勉強に役立つこのようなアイデアは、他にもいろいろ考えられそうなので、今後のさらなる改良に期待したい。


さて、最後に、多少重複するが、このソフトを購入するべきかどうかについての指針を載せておきたい。

まず、初心者。定跡をこれだけで、覚えようとするのは、難しいと思う。今回駒落ちを載せたのは、大変評価できるし、途中局面からコンピュータと指せるのも面白い。しかし、やはり分かりやすい解説が少ないのは欠点である。基本的には、本を使い、ソフトを買うなら、併用という形で使ってもらいたいように思う。

『居飛車道場』を持っている人。今ある定跡だけで、それ以外の定跡をまったく必要としていないなら、あえて買う必要はない。と言うのも、居飛車の定跡については、それほど変わっていないからだ(一部追加されている変化もある)。しかし、それ以外の定跡を必要とするなら、購入する価値は十分にあると思う。『居飛車道場』に比べ、解説が若干増え、次の一手や、棋譜解析など、様々な改良も加えられているからである。

定跡を知りたい全ての人。結局は、定跡に興味のあるすべての人に勧められるソフトになっていると言える。私のように、気になる定跡の一変化だけを調べる辞書代わりに使う人もいれば、本と併用して、勉強に使いたい人もいるだろう。定跡の一局面からコンピュータと対戦できるのも役に立ちそうである。

定跡などまったく不要と言う人には、同じソフトでも、東大将棋6や次のバージョンを買った方が良いかもしれないが、とにかく定跡にちょっとでも興味のある人にとっては、これほど詳しくて便利なものは他にない。

(解説欄が、本に比べ、少ないということを理解してもらった上で)是非お勧めしたい、すばらしいソフトである。

2004年4月1日作成

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