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(20)激指8のレビュー

2008年の12月、激指の最新バージョンである8が発売された。私の持っている最新のソフトは三年前の激指5。さすがに三年も経つので、棋力も一段と強くなったのではないかという期待と、やはり今年はアマチュア超トップと互角の戦いを繰り広げたという実績を見た為、久しぶりに買ってみることにした。

但し今回はレビューにそれほど多くの時間を割けないため、ソフト同士の対戦はなし。また興味は強さではなく次の三点についてであるので、この辺りを中心に調べていきたいと思う。なお、強さに関して言えば、主要なソフトであればどのソフトでも最強レベルはアマ五段をしのぐ強さになり大差ないという認識で良いだろう。

今回調べた気になっている点

(1)駒落ちの定跡、指し手はどうか?(平手でも、いかにもソフトと言った指し手はあったが、駒落ちではさらに顕著に現れていた)

(2)下位レベルの指し手は人間的か?(ひどいときは、10級レベルで序盤は駒を行ったり来たりしているのに、終盤突然詰めるということがあった)

(3)形勢判断はどの程度正確か?(今までは通常の強さより常に二段程度形勢判断が悪かった:五段の実力でも形勢判断は人間の三段並み)

これら三点を主に激指5との比較で調べていきたいと思う。

---目次---
(1)最初に使って見た感想
(2)激指5との違い-下位レベルと駒落ち
(3)形勢判断はどの程度正確か
(4)その他の機能
(5)結論

参考:MYCOM GAME WEB/将棋ソフトのページ/激指8の情報ページ(販売後のバグ等を修正)

(1)最初に使って見た感想

すでにメールマガジンの第156号で書いたことだが、竜王戦第7局では、激指5を使いながら観戦した。そしてそれが終わった20日の日に激指8が届いたので、再度途中局面を入れてそこから激指5が指した手に対しどのような手を激指8が指すのかを見てみた。

ところで、話をする前にまずバグの報告をしておかねばならない。最初、激指5と同じノートパソコン(WindowsXP、AthlonXP-M2400+、メモリ768M)にインストールして動かした所、時間制限をするとコンピュータが時間切れ負けになるというバグに遭遇した。
時間制限をしないと、六段の設定で32〜33秒位で指すのであるが、30秒に設定すると時間が切れるのである。
どうやらCPUの性能が低いとこのような現象が生じるようなので、デスクトップ(Windows Vista、Core(TM)2 Duo T7250、メモリ3GB)に入れ替えてみた。そうするときちんと時間内に指して切れることはなくなったが、修正ファイル(上記激指8の情報ページ)が出るまでは特にCPUの低い人は注意して欲しいと思う(もちろん時間を設定しなければ問題ない)。

このようなことがあったので、以下の検証に使ったのは、激指5では上記ノートパソコン、激指8では上記のデスクトップと性能が違うパソコンで比べていることを断っておきたい。但し、パソコンの性能によるところは今回のレビューではあまりないのでそれほど問題にならないと思う。


まず、メルマガに書いた中で、一番驚いたのが、左図で▲5二金と打ったらどうなるかという箇所。激指5との対戦では、▲5二金に対し△8七歩成から入り、結局自陣に手を入れることはなかったが、激指8では途中で△2二玉の早逃げをしたのである。これは大いなる進歩と認められるし、一番感心したところだ。


その後、実際に早指しではあるが、何度か序盤に定跡を外しておかしな手を指してみたのだが、それに対して一緒に崩れるということはなかった。以前のソフトであれば、必勝定跡みたいなものを見つけることが出来たのだが、だいぶ改良されている印象を持ち、あるいはもう必勝定跡そのものがないのではと思わせられるほど正確に対応していた。

序盤、中盤、終盤とすべての箇所において少しずつではあるが確実に強くなった印象を持った。これが一年くらいであると差を見つけるのが難しいかもしれないが、さすがに三年の月日ではソフトも確実に強くなったようだ。

(2)激指5との違い-下位レベルと駒落ち

さて、今回の激指8に期待していたことの一つは駒落ちで指した時の指し手。どの程度定跡が入っているか、またどのような指し手をするかと言うことに興味を持っていた。

激指5でも一応定跡は入っている。しかし、定跡を外れた途端におかしな手を指すのである。たとえば図の二枚落ち。ここまでは定跡に入っているのだろう。すらすら組むのだが、ここでもし一手でも定跡外の手を指すとたちどころにおかしな駒組みに戻る。
たとえば、ここで本来は玉をカニ囲いに組んでそれから▲4六銀と出て行くような形になる訳であるが、その手順を少しでも崩すと・・・。

何と、上手であるソフトの指し手は△7二玉〜△8二玉〜△7二金と玉を下段に囲うのである。

こうした手順が三年経ったらなくなっているのだろうか?と期待していた。

そこで早速激指8の最高レベルの六段と二枚落ち(時間制限なし)を指してみた。
△3二金(激指8)▲7六歩(自分)△2二銀▲4六歩△3三歩▲4五歩△3三銀

いきなりソフトが定跡を外して来てビックリである。いや、厳密に言うと、このような指し方もないわけではない。実際、「二枚落ち裏定跡」(所司和晴著:日本将棋連盟)の本には載っているくらいなので一応定跡とも言えるのだが、それでも本筋とはとても言えない。

たまたまかと思い、もう一度指してみたところやはり同じように指して来て、美濃に囲うのである。下手の指し方は簡単。右銀を繰り出し、飛車と角筋で3、4筋を集中攻撃すればすぐにつぶれる。

それにしても正直ちょっとがっかりして六枚落ちも試して見た。

激指5であれば六枚落ちもきちんと定跡を指すのである。ところがこちらも激指8は初手△4二玉!
△4二玉ももちろんある。しかし、やはり定跡の本筋ではないのである。

二枚落ちほどではないが、どうも駒落ちは激指5に比べてかえって定跡を少なくしたのではないかと疑いたくなるほどだ。
いずれにしても、これだと定跡を初手から勉強するという訳にはいかない。ある程度組み上がった状態から指し継ぐという使い方しかできないだろう。いったいいつからこのようになったのか。6と7はどうなっているのかは分からないが、駒落ちに関してはレベルダウンしたとしか言いようがない。


次に下位レベルがどうなったかである。激指5の12級とか10級とかと指すともう序盤から適当な歩を突いたり、玉の往復運動をしたりとても人間の初心者とは思えないような指し方をして弱くしている。

そこで激指8の12級や10級と指してみた。驚いたことに、こちらが定跡通り指すと、ソフトも定跡通り指して来るのである。こんなに定跡通り指したらとても強いのかと思ったら、中盤から弱くなり、終盤になるに従いさらに弱くなっていった。

人間の初心者と同じような弱さ!この改良には逆に驚き、ちょっと感心してしまった。
今回の激指8では、中盤から終盤にかけて徐々に弱くするという工夫が見られたので、どの程度なのか平手では同じくらいの棋力の人が指さないと分からない為、駒落ちで試して見ることにした。

まず激指8の12級と八枚落ち(私が上手)。すると、楽に勝ってしまう。と言うことは人間の棋力としてもそれほど変わらないかもしれない。次に10級とも八枚落ちで試したが12級ほどではないが、やはり勝てる。このように少しずつ進めて、八枚で勝てなくなったら次に六枚落ちという風にしてみると、六枚で4級や6級と、二枚なら初段や二段と良い勝負。これなら本当に人間の棋力と同じようなレベルであり、同時に指し手も極めて人間の指し手に近くなったと言えよう。

なお、入間将棋センターのレベルは、連盟道場とほぼ同じかやや甘い程度で、いわゆる田舎の将棋道場よりはかなり甘めになっている。但し、手合い割りは上手に厳しく、二段差角落ち、四段差二枚落ち。私と八枚落ちで良い勝負をするなら7〜10級。六枚落ちなら3〜5級、二枚落ちなら初段〜二段と言った感じで、私が真剣に指した場合、六枚で完璧に勝ち切れれば2級、二枚で勝ち切れれば三段と言うのを一つの目安にしている。
こうしたことから今回の激指8の下位レベルについては、入間将棋センターの段級よりやや辛いかもしれないが、それだけに、一般的な将棋道場のレベルとほぼ同じと言えるかもしれない。

人間的な指し手になり、正確に少しずつ弱くしていることにちょっと感動した。これなら下位レベルを使って自分の棋力も分かるし、勉強にもなるだろう。
このようになったのがどのバージョンからだったのかは分からないが、いずれにしても三年前の激指5に比べると下位レベルが格段に改良されていると言うことは間違いない。

(3)形勢判断はどの程度正確か

さて、駒落ち定跡はダメ、下位レベルは非常に良く改良されてるという結果になったが、最後の一つ、形勢判断は(激指5に比べ)どうなっているだろうか。

竜王戦第7局を一度解析させてみたのだが、激指5に比べるとどちからに形勢が傾いた時の判断が早いように感じた。しかし、さすがにプロのタイトル戦では荷が重すぎるのだろう。それほど正確という感じはしなかったので、他の棋譜を探してみた。

使いたいのは、「棋譜がネット上にあり、しかも持時間が短い棋戦で、逆転している将棋」という訳で、大和証券杯の12月7日に行われた清水-千葉戦を使わせてもらった。

激指8、棋譜解析の棋力六段で解析時間は約1時間

激指5、棋譜解析の棋力五段で解析時間は約30分

この図から形勢の入れ替わりを見るとほとんど同じだ。これを見る限りあまり差がないようにも見える。もっとも、形勢判断自体が正確であれば差がなくても良いわけだが。

では、順に最初からコメントの疑問手、悪手を見ていく。

まずいきなり激指8、初手▲2六歩に「悪手」があるがこれはバグ?
それはともかく、最初の「疑問手」がどちらも30手目の△6二銀で一緒。次は85手まで激指8は何のコメントもないが、激指5には48手、62手とある。しかし、自分たちが見ている時は、48手目はやむを得ない好手(その前で少し先手の形勢が良くなった)との判断で、62手目も疑問ではない。

見ている時に評判が良くなった手が、85手目先手の4七香。激指5では何も書かれていないが、激指8にはこれにしっかり疑問手の烙印を押している。これはさすがだ。
108手目の△6五桂打にはどちらも「疑問手」。見ている時は、歩の間違いか?と言った声も出たが、人間的な勝負では渾身の勝負手とも言える。こうした手が先手の疑問手を誘い出しているのだが、さすがにソフトには分からない。

この後は、どちらも指摘箇所はほぼ同じだが、後手の好手△1七角には激指5だけが、「疑問手」を出している。

こうしたことを見ていくと、差は小さそうにも見えるが、激指5で指摘している間違いが激指8ではなくなっていることが分かる。と同時に▲4七香の指摘などかなり正確になっているようにも感じる。一つだけでははっきりとは言えないが、激指5の形勢判断能力をアマ三段とするなら激指8ではアマ四段並みの形勢判断能力と持ったと言っても良いのではないかと思う。

つまり、プロのタイトル戦を判断させる場合にはそのまま正しいと思うのではなく、ある程度の指針にし、自分たちアマチュアの将棋を判断させる時には、十分参考に出来るようになったと言うことだ。

(4)その他の機能

私自身は、タイトル戦などの実況戦で、形勢判断をする時に相手になってもらうという使い方以外ではほとんど使わないが、一応メニューを見て、激指5と激指8の違いを見てみたい。6と7を持っている人は、自分のものと比べて欲しい。

まず、ファイルの欄に、「マイナビ女子オープン棋譜鑑賞」が追加された。
そして次の対局の欄には、「実戦詰将棋道場」と「棋士シミュレーションモード七冠への道」が追加されている。そのかわりに「ストーリーモードはなくなっている(激指5までか?)。

また、各種設定に、「探索並列度」という項目が追加されている他、通常対局にも五段+と六段が追加されている。

メニューを見ての違いはそのくらいなのであまり変わっていないようにも感じる。

一応、激指8の公式の情報ページにある「新機能」を転載しておくが、これによると定跡を大量に入れたようだ。
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○棋士シミュレーション〜七冠への道〜
・プロ棋士八段の対局をシミュレートします。(棋戦名、システム、対戦相手はフィクションです。)
・レベルは3段階に設定できますので、初級者でも楽しめます。
○思考は優勝バージョンをさらに強化
・思考は2008年5月の世界コンピュータ将棋選手権優勝時のものをベースに磨きをかけ、通常対局に六段が加わります。
○定跡は流行形中心に200万手搭載
・定跡は2年ぶりに根本的な改良を行いました。最新流行の定跡手を中心に200万手を収録しました。
コンピュータはゴキゲン中飛車なども指してきます。
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ここまで情報ページにある文章。

(5)結論

さて、簡単に使って見ただけだがここまでの感想をまとめておきたい。

強さに関しては一度時間が取れたら真剣には指してみたいとも思っているが、十分な実績をコンピュータ選手権などで作っているので改めて述べる必要もないだろう。持時間の短い将棋なら市販のパソコンでもプロに匹敵するくらいの力を持ち始めているということだ。

そして、今回期待していた三点について。
駒落ちについてはがっかりだった。自分で定跡を作って入れればそれなりに対応はできるのかもしれないが、それでも(上手の玉は上部へ出る:上手から攻めを見せるという)駒落ち特有の指し方をさせることは当分期待できそうもない。

しかし、下位レベルの改良がここまで進んでいることには驚き、また感動的ですらあった。これなら級の人でも十分楽しめるし、役に立つだろうと思う。

形勢判断についてもずいぶん正確になったと感じた。三年で確実に一段はアップしている。

以上総合的に判断し、三年前の激指5に比べ格段にアップし、ものすごい機能が加わったと言うことはないが、その強さや形勢判断、下位レベルの指し手など全般において(駒落ちを除き)すべてレベルアップしていると考えて良いと思う。

購入については、あくまで個人的な考えだが、同じソフトは三、四年に一度で良いかなとも思っている。しかしどのソフトがお薦めかと言えば、やはり総合的に見て激指は良いソフトなので、前バージョンを持っていない人には、是非お薦めしておきたいと思う。

2008年12月26日作成

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