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はじめに-級位者の人へ贈る受けの妙技

受けるのは嫌なものである。いや、もちろん、受けの好きな人もいるだろうが、ほとんどの人は、嫌いなはずだ。なにしろ、「受ける」ってことは、「攻められてる」ってことだから。受けるより、攻めることの方が好きな人は多いはずだ。

しかし、嫌いだからと言って、王手をされたら、受けるしかない。その時は、大きく、三つの方法がある。一つは、王手をしている駒を取ってしまうことだ。二つ目は、玉を逃げること。この二つの方法は、初心者でも分かるし、それほど難しい手が出る訳ではない。そして、三つ目は、飛び道具(飛角香)で王手をされた時に、合駒をする方法である。

この合駒と言うのが、実は結構難しい。ある合駒だと詰み、別の合駒だと詰まないと言うことがよくあるのだ。また、さらにその上の妙手も実戦で出て来ることがある。ここでは、その受けを、有名な詰将棋を例に取って、説明しよう。

左の図、今△8一香と打たれ、王手がかかっている。この王手を防いで、詰みを防ぐ方法はあるのだろうか?(なお、▲持ち駒は、全ての駒を持っていることを表すため、一枚ずつ載せている)

たとえば、8八の地点に、歩を合駒してみよう。しかし、△同香成(又は△同金)と取られると、そのまま詰んでしまう。他の合駒でも同じことだ。では、玉を逃げたらどうだろう?しかし、▲9九玉なら、やはり同じように、△8八香成で詰みだし、▲9八玉と逃げるのが、一番、手が長そうだが、△8七香成と成られ、▲8九玉でも▲9九玉でも、△8八金と入られて詰んでしまう。

では、受けがないように思えるのだが・・・。


ここで、妙手がある。▲8七歩と合駒するのだ(左図)。

一見、この手は意味がないような気がするのだが・・・。△8七同香成と取ってしまうと、王手ではなくなってしまうので、王手を防いだと言うことが出来る。

では、△8七同香不成と取ったら、どうするか。その時は、▲9八玉と上がるのである。下に香がいた時は、△8七香成と成られてしまったが、今は8七に香がいるため、ここに成ることは出来ない。したがって、△8八香成と王手するよりないが、▲9七玉△8七成香▲9六玉で、脱出成功である。

このような▲8七歩を中合いと言い、実戦でも、時々出ることがある。特に、香の場合は、離れているほど、利きが強いので、中合いで、近くに呼ぶことにより、利きを少なくするのである。

では、もし、後手が、香の他に、歩を二枚持っていたら、どうなるであろうか?

同じように、▲8七歩と中合いするのは、△同香不成なら、▲9八玉で大成功だが、歩を持っているため、△8八歩と打たれ、▲9九玉にさらに△9八歩(左図)と打たれてしまう。以下は▲同玉の一手に△8七香成▲9九玉△8九歩成▲同玉△8八金まで詰んでしまうのである。

こんどは、相手に歩が二枚あるため、どうしようもないように見える。しかし、ここでも、絶妙手があるのだ。

それが、▲8七銀である。(次の図)



この▲8七銀は、すごい手だ。何にも利いていないところに、タダで捨てるのだから。

まず、今までと同じように、△同香不成と取ったらどうなるか。やはり、これには、▲9八玉と上がって脱出出来る。相手に銀の持ち駒が加わったくらいでは、脱出を阻止出来ないのである。

では、前回のように、△8八歩と打つとどうなるか。▲9九玉の一手に、△9八歩。ここで、▲同玉だと、△8七香成と銀を取られながら成られてしまうが、8七にいるのが、銀なため、▲同銀と取ることができる。

そして、さらに、△8九歩成▲同銀△同香成と追撃は続くが、▲同玉△8八銀▲9八玉でも、▲9八玉△8七銀▲9七玉でも、僅かに詰まず、逃れているのである(良く分からない人は、実際に盤に並べて見て欲しい)。


実戦では、歩の中合いは、たまに出ることがあるが、さすがに、銀の中合いというのは、めったに出ない。しかし、大道詰将棋(だいどうつめしょうぎ:詰将棋用語集参照)の中には、ものすごい受けの妙手が随所に出てくるのである。

実は、この問題は、昔からある大道詰将棋の基本的な問題の一つだ。実際には、左のように、香と歩が四枚ある。初心者だと、歩などいらなくて、5手で詰むように見えるが、実際は、全部の駒を使い切って15手詰。

つまり、この詰将棋の正解は、▲2四香(2四以下ならどこに打っても良い)△2三銀▲2二歩△1一玉▲1二歩△同銀▲2一歩成△同銀▲1二歩△同玉▲2三香成△1一玉▲1二歩△同銀▲2二金(成香)までとなる。

これは、大道詰将棋の基本中の基本である。もし、こういった受けの妙手を見てみたい、もっと受けに強くなりたいと思ったら、「蘇る秘伝大道棋」をお勧めしたい。この本は、有段者向けの本の中でも紹介しているように、私の一押しの本の一つだ。但し、必然的に内容は、かなり難しいので、最低でも道場初段くらいの棋力がないと、読み進めるのは大変かもしれない。それ以下の棋力の人は、3手や5手など、やさしい詰将棋をたくさん解くようにして欲しいと思う。


さて、今回は、逆を持って、どうすれば、詰まないかを考えてもらった。

この実戦における「凌ぎの手筋」のページでは、実際に実戦に現れたり、「実戦の詰み」の問題を作っていて伏線に出てきた受けの妙手を中心に、載せていきたいと思っている。内容は、合駒の選択や、中合い、逆王手などが主なものになると思うので、級位者には、やや難しいかもしれないが、できるだけやさしい問題も織り交ぜて行きたいと思っているので、是非挑戦して見て欲しい。

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