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将棋に関するミニ感想

2005年4月
4月12日(火)   難問詰将棋を解く過程


プロの将棋を見ていると、こんな序盤に何時間もいったい何を考えているのだろう?とか、中盤や終盤、どのような読みをしているのだろうと言った疑問を持つことも多い。

自分も、将棋に熱意を持っていた昔は「プロ棋士の考えが詳しく解説された本があればいいのに」と良く思っていた。今では、佐藤康光の自戦記とか藤井の書いた本などその棋士独自の考えが披露された本も多くなり、アマの将棋上達を助けるという意味では開かれて来ているとも言えそうだ。

しかし、難解な詰将棋を考える時、プロはどのくらいで本筋に到達するのだろうか?実戦譜の解説と違って詰将棋を解く過程というものを解説した本とか雑誌とかは見たことがない。

いつか、プロからアマ初級者まで棋力別に「詰将棋を解く過程」みたいな特集があっても面白いのではないかと思っている。

そこで、今回ちょうどいい題材を見つけたので、自分が詰将棋を解いて行く過程を載せて見ることにした。

この上の図面、まずは腕に自信のある方、ノーヒントで解いて見て下さい。徐々に大きなヒントとなり、最後には答えを載せておきます。

この時点では、30分でプロ級、4時間でアマ五段、(何日何十時間かけても)解ければ四段以上としておきましょう。



4月3日の日曜日、席主の仕事をしながら今月の将棋世界5月号を見ている時のこと。いつも面白い「盤上のトリビア」の記事。「スーパーあつし君」こと宮田敦史五段のことが載っていた。

彼は、第一回第二回とも詰将棋選手権でぶっちぎりの優勝を飾っている。この選手権の問題を自分も解いては見るのだが、当然時間内などには解け切れない。この難問を軽々と解いてしまうのだから、まさに「スーパーあつし君」である。

しかし、そんな彼が解けなかった問題があると言う。それが、上に出した詰将棋である。これは、岩崎守男氏作、近代将棋16年12月号の詰将棋シアターに載った問題だそうだ。これをどの程度考えていたのか具体的な時間は書いてないのだが「解けなくてついに答えを見てしまった」という。

そして、「9手目からの手順が盲点になっていました」とも書かれていた。

「ふーむ!あのスーパーあつし君が解けなかった問題!これはどれだけかかろうとも解かなきゃいかんでしょう。」という訳で、将棋センターに来る常連さんのうちで唯一詰将棋の話題を振ることの出来る田中さんと早速並べて見ることにした。

但しその前に、柿木将棋8にこの図面を入れて解けることを確認。僅か5秒で「25手詰です」の解が。初手を見ないようにしてすばやく柿木を閉じる。

え?なんで柿木に解かせたのか、って?それは、この先にヒントがあるかもしれないので将棋世界を閉じたのだが、もしこの後に「実はこの問題は不詰めでした」なんてオチがあったらシャレにもならないから。

そこで、手数は分かってしまうが、まずは解けることを確認したという訳だ。

そして、ここからいよいよ解き始めることになる。この段階でのヒントとして、25手詰なこと。さらにスーパーあつし君が、9手目からの手順が盲点になっていたということ。この二つのヒントはあるものの、

この時点では、30分でプロ級、3時間半でアマ五段、(何日何十時間かけても)解ければ四段以上としておきたい。

(スーパーあつし君が解けなかったのに30分でプロ級は厳しすぎるのでは、という見方もあるかと思うが、問題の難易度はこんな感じだ。この問題は、スーパーあつし君がたまたまドツボにはまって解けなかっただけだと思う。)




4月3日、席主の仕事の合間に40分程度考える。

まず▲5三飛成から入る。△2四玉に▲3四金△同玉▲4三龍△3五玉。続いて▲5三角は中合いされるので、▲1七角。合駒は出来ないので△2六との移動合い。しかし、▲4五龍でも▲4六金でも届かない。

まず、最初の15分で考えたのが、上記を本線とする手順だ。

▲5三角に中合いも引き続き考える。△4四歩▲同龍△2六玉に▲4八龍。△3五に合駒▲2八龍に△2七との移動合い。うーむ、詰みそうもない。それにいかにも作意って感じではない。
▲1七角にしてもそうだ。ここに角を打ってしまって△2六ととなった局面。この▲1七角が後々使えそうもない。どこかで▲2五桂とでも跳ねて△同とという形になればまた角を飛び出せるかもしれないが、そのような変化に持って行けそうもない。ゆえにこの筋は一目だが▲1七角の感触が悪く作意ではないと考える。
(←難問詰将棋を解くコツその1:駒が残りそうな手順は作意ではない)

ここまでが15分で考えた手順。そこで、初手が違うのかと他の手を考えてみる。

4二のと金がじゃまそうなので、▲3二とや▲4三とと捨てて見る。しかし、▲3二とは△2四玉でかえって香が利いてきて詰み形になりそうもない。▲4三とも普通に玉でも香でも取られて後続がすぐには見えない。

他に有力そうな手は、4四へ駒を捨てる手。角か金を捨てる。逃げる手もあるが、とりあえずは取る変化から。▲4四金(角)△同玉▲4五金△3三玉。ふーむ。いろいろ有力そうな手はありそうだが、どうもはっきりしない。

細切れの時間の間に40分程度考えていたのはこんなところだった。



翌4月4日、風呂につかりながら30分程度考えていた。

考えていたのは昨日の手順をおさらいしながら。

初手▲5三飛成だと△2四玉に▲3四金までは必然。△同玉でどうするか。▲4三龍以外に▲4五金や▲4五角などもある。その変化を追いかけているうちにふと思った。「あ!▲3四金△同玉に▲2五金がある!」同馬とさせておいて、▲5二角だ。一瞬本筋か、と思ったが、△3五玉▲2五角成に△4六玉とすり抜けられる。先に龍を引いてもダメだ。うーむ、詰まないか。

次に初手▲4三とをまた考えてみる。昨日は、△同香▲1一角△2四玉でも△4三同玉でも詰まないと思っていたのだが、△同香には▲1一角でなく▲5一角と打てることに気づく。△3四玉に▲2五金と打ち△同馬▲3二飛成△4四玉▲4五金△5二玉▲6二龍。なんとピッタリ。つまり▲4三とには△同玉の一手。

△同玉と取られたら飛車取りなのでこれを防がなければならない。と言って▲5三金のような手では上がられて全然足りない。何か良い手はないか、と考えていてすぐに▲5四角に気づいた。これなら飛車は取れないので、△3四玉と上がる一手。▲3二飛成△3三歩合に▲2五金か▲4五金。しかし3五からの脱出が止まらない。

しかし何かありそうだ。何と言っても▲4三とに△同香がピッタリだし、△同玉に▲5四角の感触が良い。これが本線では、と思うようになった。しかし詰まない。

なかなか詰まないので、また▲4四金や▲4四角を考えてみる。しかしこっちはもっと詰まなそう。

結局風呂から出る時に出した自分の結論は、初手▲5三飛成が正解の確率40%、▲4三とが同じく40%、▲4四角と▲4四金がそれぞれ10%弱。万一これ以外の手が正解だったら、この詰将棋を解くのにまだ何日もかかるだろう、というものだった。

そして結果としてはこの結論は合っていた。つまり初手はこの二つのうちどちらか。

ここまでのヒントで解ければ、20分でプロ級、2時間半でアマ五段、(何日何十時間かけても)解ければ三段以上。



翌々日4月5日、食後30分くらい考えていた。

考えていたのはやはり▲5三飛成△2四玉▲3四金△同玉の局面。しかし、考えは堂々巡り。最初に考えた▲4三龍△3五玉▲1七角などになってしまう。しかも、「スーパーあつし君」が気づかなかったという9手目も気になったが、この変化では難しそうな9手目にならない。どうも本線ではない。

やはり初手▲4三とだろうか?しかしこちらも△同玉▲5四角△3四玉の局面からいろいろな所に金を打ってみるが堂々巡りで結局30分考えても新しい筋は発見できなかった。

「ああ!初手が知りたい!最近は柿木将棋のせいで初手を見る誘惑に負けそうになる
(←人のせいにしている)。詰将棋ばかりではない。実戦の詰みでも以前は検討に30分くらいは普通に考えたのに、今では10分も考えて詰まないと柿木にかけてしまう。詰むのを確認してからまた詰ませるという具合だ。これでは詰みの棋力がどんどん落ちていっても仕方ない。

つまり、将棋ソフトは使い方によって善にもなれば悪にもなると言うことである。(もう自分みたいに上達を諦めた人はともかく、上達したいなら)くれぐれも間違った使い方をしないように。



さて、ソフトにかける誘惑を断ち切りながら4月6日。

深夜0時。花粉の症状がひどく眠れない。このシーズンで最も悪くなった。こんな時は無理に眠らない。ちょうど良いので布団の上に座って詰将棋を考えてみる。あぐらを組んで目をつぶってじっと考える。こんな所を見られたら恐いが。

考えの本線はやはり▲5三飛成と▲4三と。まずは▲5三飛成から考え始めたが新しい筋は出てこない。この二つ以外にも、もう一度すべての王手を考えてみる。しかし3、40分考えてやはり詰みそうな筋はないことを確認しただけ。

そしてまた▲5三飛成に戻る・・・。と再考し始めて・・・△2四玉に、あれ?▲4四龍と引く手がある。

どうして今まで気づかなかったのだろう?引けるよねぇ。と何度も局面を思い浮かべながら真っ暗な部屋で自問自答。こんな平凡な手は実戦だったらまず一番に指しそうな手だ。しかし詰将棋故にまったく出てこなかった。

▲4四龍に△3四歩合なら▲2五金。△同馬は▲3三角から▲2五桂があるので△1三玉の一手。さらに▲2四金打とすれば△同歩なら▲3三龍とすり込める。△同馬なら▲同金で同じようになる。

と言うことは、△3四の合駒が違うか△1三玉と下がるかだ。

まどろんでいたのだが、俄然目が覚めて来た。いよいよ本線に入ったか!?

まず、▲1三玉と下がる変化。▲3一角△2二合駒▲2五桂△同馬▲2二角成△同玉▲3三金△1三玉▲2三金△同玉。詰まないまでもかなり追える。

次に△3四の合駒を考えてみる。何でも▲2五金と打ち、△同馬は3四の合駒に関係なく▲3三角から簡単だ。▲2五金には下がる一手。となると▲2四金打△同歩の時、▲3三龍とすり込めないように△3四の合駒は金か。

この変化をしばらく考えていたが、なかなか頑強な抵抗ですぐに詰まない。しかし、「あれ?普通に取ると?」意外に狭いことに気づいた。そう、△3四金には▲同龍がある。

これで△1三玉の一手だということが分かった。長かったトンネルの出口がようやく見えてきた。

ここまでのヒントで解ければ、10分でプロ級、1時間でアマ五段、解ければ二段以上。(下の図面参照)




もうこれが本線だということに確信を持って読み進めていった。時計を見ると深夜1時を回っている。

しかし目はかえって覚めてきた。▲3一角△2二合駒▲2五桂。

しかし・・・あれ?これだと先に▲2五桂と跳ねて△同馬に▲3一角でも同じ変化になるな。こうした手順前後は詰将棋では大きなキズとなるので、雑誌などではまず入選しない。ということでこれは作意じゃない。
(←難問詰将棋を解くコツその2:手順前後が成立していたらそれは作意ではない。どちらに打っても同じ局面に戻る場合も然り。)

もっとも、この場合はどちらかの手順が不成立になるのだろう、と考えて読みを進めていった。先に▲3一角を打った時、何を合駒するか?

とすぐに気づいた。そうか!△2二桂と合駒するなら▲同角成△同玉▲3二金△1三玉に▲2五桂打のつなぎ桂があって簡単だ。先に桂を跳ねてしまうと△2二桂と合駒されて詰まないのだな、とこの時は解釈。

結局、香以外の合駒は簡単に詰むことが分かって、▲3一角には△2二香合の一手だと分かる。そこで、▲2五桂と跳ねて△同馬に▲2二角成から▲3三金と攻めるがどうも僅かに届かない。


そこで気づいた。そうか▲2五桂とは跳ねないんだ。単に▲2二角成と切り、△同玉の一手に・・・。そして次の手が、ちょうど「スーパーあつし君」が読み落とした9手目に当たる。


しかしここまで来れば次の一手を見つけるのもやさしい。

左の局面からまだ17手もあって、良く知らない人はまだまだ大変ではないかと思うかもしれないが、この局面にたどり着くまでに三時間かかったとしても、ここから最終到着点までは後30分もあれば行けるのである(実際には、この局面を正解とは知らない訳だから、次の手に気づかず詰められず、違うのでは、と考えてまた初期局面に戻ってしまうことは良くある。ここまでを「正解と知っている」ということは止めどもなく大きなヒントとなる)。

と言う訳で、ここから解ければ、20分でアマ五段、40分で四段、解ければ二段以上。



そう、この局面まで来れば▲3二との発見はやさしい。△1三玉には▲2四金と打ち、△同歩なら▲2三金、△同馬なら▲同龍が成立するのである。

そこで、▲3二とには△同玉の一手。続く▲3四香にどうするか。合駒は▲同香成△同馬に▲3一金△2二玉▲2一金打とベタベタ打って詰む。この詰みにはすぐ気づいたが、深夜頭の中で考えている時には、△2一玉がなかなか詰まなかった。▲4一龍△2二玉▲3二香成△1三玉で、あれ?なんて読みをしていたが、しばらくして▲3二金と打てることに気づき苦笑。

結局△2二玉と逃げる一手。以下▲3三金△1三玉▲2四金△同馬▲2五桂△同馬▲2三金△同玉▲3三龍。詰んだ。あれ?でも歩が余る。しかも手数を数えたら21手。

どこで逃げ方を間違えたか考えていてすぐに気づいた。手筋とばかりに打った▲2四金には△同玉と取られてしまう。そこで修正。▲3三金△1三玉に、先に▲2三金だ。△同玉には、取った歩をとりあえず打って見る。詰将棋で歩や桂を持ったら、とりあえず打って見ること。詰将棋では最後に駒が余らないのでこうした使い勝手の悪い駒はすぐに使ってしまうに限るのである。
(←難問詰将棋を解くコツその3:持ち駒に桂香歩があったらまず打ってから応手を考える)

▲2四歩に対し△同玉は▲3三香成がピッタリ。△同馬に再度▲3三金と打ち先ほどの手順が今度こそ成立する。

やった!ついに詰んだ。つまり正解は、

▲5三飛成△2四玉▲4四龍△1三玉▲3一角△2二香▲同角成△同玉▲3二と△同玉▲3四香△2二玉▲3三金△1三玉▲2三金△同玉▲2四歩△同馬▲3三金△1三玉▲2五桂△同馬▲2三金△同玉▲3三龍までの25手詰。



深夜1時半過ぎ。まだこの詰将棋のことをぼんやりと考えていた。

なんかものすごく難しい手があった訳ではない。▲3二とにしてもあの局面になったら発見できない程難しい訳ではないし、むしろ自分が時間がかかったのが、3手目の▲4四龍という平凡な手の発見だ。もしこの手の発見までに1時間位しかかかっていなければ2時間以内に解けていたかもしれない。

この詰将棋に比べると、かつて難問詰将棋としてホームページで紹介した次の2問の方が難しいように思う。

ミニ感想2003年10月8日の15手詰 つぶやきに書いた詰将棋23手詰

この二つの詰将棋には思いもつかない
驚愕の一手が存在する。それを発見した時の驚きと感動。そうしたものがあるからどんなに難しい詰将棋にも挑戦しようとする気が沸く。

しかし、今回の詰将棋は時間がかかったものの特にこれと言った驚くべき手はない。今回、解後感がイマイチだったのにはそんな理由がありそうだ。



(余談)第2回詰将棋解答選手権の詰将棋を解いてみて

「第2回詰将棋解答選手権の問題」がネットに公開されたので、これを解いてみた。

まずは、一般戦の6問。制限時間が90分だが、少し余裕を持って解くことが出来た。4問目の逃げ方が多くてちょっと時間がかかっただけ。これだけやさしい問題なら出てみようか、という人も増えるかもしれない。

次のチャンピオン戦前半6問の問題。制限時間はこちらも90分。1、2、3と順調に解けたが、4問目で止まった。5問目を先に見てみたもののこれもまた解けない。さらに6問目を見たら、こちらの方が先に解けた。結局、60分くらいで4問解けたので、これはいけるのではと思ったが、残り30分では4問目も5問目も解けなかった。

しかし、90分過ぎ、それほど時間もかからずに、4問目の絶妙手に気づく。なるほど!さらにほどなく5問目の堂々巡りにも穴を見つけた。という訳で全部で120分くらいだろうか。

これをスーパーあつし君は、なんとたったの27分で解いたのである。この六問全部とここに出した最初の25手詰は同じくらいかな、と思う。そういう意味でも、スーパーあつし君がなかなか解けなかったのは、やはり「たまたまドツボに入っただけ」とも言えそうだ。

(スーパーあつし君は)後半の難問4題も、僅か1時間で全問正解を出している。しかもそのうちの一つは余詰めまで指摘したそうだ。すごいの一言。

自分も後半の4問、時間があったらやってみようと思う。目標は、えーと、1週間、5時間以内くらい。。。

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