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将棋に関するミニ感想

2011年12月

12月7日(水) 筋悪な「実戦の詰み」と正しい詰み手順の考え方

12月4日に放送されたNHK杯。松尾七段と北島六段の一戦で、私もいつも通り、(受けの手筋出題の為)棋譜を入力しながら見ていた。そして終盤、次の図のような局面になった。


この局面で、私が一緒に考えていたのは下記のようなこと。

「△7六歩は△8八銀▲同玉△7七歩成で(たぶん)詰みだな。一旦金を引いた方が得なのかな?それともこのまま詰めに行くか?詰ますとすれば▲2一銀か▲4二金。▲2一銀は△2二玉▲3一龍に△1三玉でこれは詰まないので、▲3一龍の前に▲1二金△同香を入れておく。しかしそれでも上部が広いのと4五に銀がいるので(たぶん)詰まない(この銀がいなければ、▲2一銀で最後に▲3四龍と引けるので詰み)。(詰ますとすれば)▲4二金から入るしかないか。△3三玉なら▲3一龍△2四玉に▲3五金。これはかなり際どい。しかし、▲4二金には△2二玉で以下▲3一龍△1三玉▲1一龍と追うのは足りないようにも見える。」

文字にすると長いが、だいたい30秒で考えていた内容。そのうちに、バシッと▲4二金が打たれる。

「おっ!詰めに行ったか!しかし、△2二玉で詰むのかなぁ?」と思っていると、北島六段は△3三玉!!!

「ひえーー!なぜ△3三なんだ!?」「これ、危ないだろう?詰まないのを読み切ってるのかなぁ?」と思いながら進行を見ていると、▲3一龍△2四玉▲3五金と進み、そのまま即詰みで終局。

いやー、終局直後はものすごく納得がいかなかった。そこで再び△2二玉について考えて見た。
「▲4二金△2二玉▲3一龍△1三玉(△1二玉もはっきりしないが、とりあえず△1三玉から)▲1一龍。そこで△2四玉だと▲2六香から際どい。△1二桂と合駒すると▲2二銀があり、△2四玉には▲2六香△2五合駒▲1四金で詰み!」
「なるほど、△2二玉も危ないのか、と言うより詰みなのかな?」と考えているうちに感想戦が始まる。

10分ちょっとの感想戦の中で、最初は中盤のところ。そして最後の方で、▲4二金に△2二玉で詰まないのでは?という話になった。

その感想戦で並べられた手順。
▲4二金△2二玉▲3一龍△1三玉▲1一龍△1二桂▲2二銀(左図)

「あれ?これは(以下△2四玉に▲2六香△2五合駒▲1四金があるから)簡単に詰みだよなぁ?」と思っていると、そこで△2四玉ではなく、△1四玉!!!があった。普通はわざわざ龍で王手される方へは逃げないものなのでこの凌ぎの一手は見落としやすい。

以下感想戦の手順。
△1四玉▲1二龍△2五玉▲1五龍△3六玉▲4五龍△同玉。ここまで並べて「やはり詰まない」と。

松尾七段は、この手順を読んで、どうも詰まないと思っていた節がある。一方、北島六段はなぜ△3三玉と逃げたのか?これはあくまで私の推測だが、▲2二銀に△1四玉!という手を見落としたのでは、と思う。だから△2二玉も詰みだと思った。30秒将棋の中で両方を読み、△3三玉も詰みかもしれないがこちらの方がより難しいと考えた末に上がったのではないか、と。

結局、放送が終了した直後は、とん死だったのかな、と思っていた。そして、「NHK杯に見る受けの手筋」を作っている時に、念のため柿木ソフトにかけてみた。

すると、何と本譜通りの詰み手順を導き出し、▲4二金△3三玉から17手詰との解答を出した。
「えー、と言うことは、△2二玉だともっと早く詰む!?という訳か?」

ここで本来なら△2二玉の変化をもう一度考えるべきだったが、△2二玉の局面にして、すぐにソフトにかけてしまった。

すると驚くべき手順が!?

◎超筋悪な詰み手順

下の図面は、その▲4二金に△2二玉とした所の局面で、「今週の実戦の詰み」とほぼ同じ(問題は、持ち駒の桂は不要な為、相手の駒にしている)。
まだ解いてない人は、先に挑戦を(手数も知らないうちにこの下の図面でどうぞ)。なお、以下の文には、すぐに大きなヒントが書かれている。


さて、この局面だが、もし詰みがあるのかどうかさえ分からない実戦で詰められたら、それはもうトッププロ並みの強さか、あるいは「これ以上伸びる要素のないアマチュア」のどちらかだろう。

それほど難しい、と言うより、詰め手順が筋悪だ。ほとんどの人は▲3一龍から読みを進めるだろうし、それが正しい順序と言える。

しかし、詰むという事と、手数がそれほど長くないと分かっていれば、▲3一龍の変化も途中で打ち切ることが出来るので、今週の実戦の詰みのように10分で三段位に低くなる。

私が(自分で解く前に)△2二玉の局面から柿木ソフトに解かせてしまった所、最初に▲3二金打!!!と出たのには、「ひえー!!!」だった。しかも、余詰め検討をすると、他の手では詰まないらしい。▲4二金△2二玉▲3二金打は、まさに驚愕の詰み手順で、ソフトならでは、だ。▲4二金はともかく続く▲3二金打は、人間には筋が悪すぎて最初から読みに入れない。

但し、詰むと言うことが分かっていれば、▲3一龍など詰みそうな筋をすべて読み、それでも詰まないので、最後に考えることになるかもしれない。
ちなみに羽生とか、特に詰みに自信のあるプロ棋士だったら、10秒で▲3一龍から先程感想戦で並べた手順を読み、詰まないと判断し、5秒位▲3三銀△同玉▲3一龍の筋を読み、詰まないと判断し、5秒位▲1四桂はやっぱり詰まないと判断し、残り10秒で▲3二金打からの詰みを発見するのかもしれない。

ところでこの実戦を見て、一つ思い出した詰将棋がある。



この左の詰将棋。たった5手詰なのでまずはサラサラっとどうぞ(すぐに大きなヒント、そして最後に解答)。

これは何年も前に、何かの本を土台にして私が作ったもの。その本が何かはもう忘れてしまったし、5手では似たような詰将棋があってもおかしくない。

しかも、一時将棋センターで難しいと言うことで話題になったのだが、それからしばらくして、ほとんど同じ形の詰将棋が週刊将棋だったか将棋世界だったかに載せられているのを見た。

まあ、所詮5手と言うことで。

・・・などど関係ないことを少し書いてから、本題。

この詰将棋、当然▲5一歩成から読みを入れる。それはごく自然だ。しかし△3二玉となった局面はもうどうやっても詰まない。今、思い出すのは、当時級位者の子供に解かせて、なかなか詰まなかったので、「じゃあ、動かしても良いから全部の王手をやってみなよ」と言って、一つずつ、やらせたことがある。

その時の子供、「▲5一歩成、▲4二龍、▲3三桂不成、▲3一金、あと王手は▲3二金と▲3一との全部で6つ!

いやー、あまりにも筋悪過ぎる王手は、読みに入らなかったとしても、決して悲観する必要はない。むしろこの詰将棋、最初に▲5一金から読んだ人の方が「将棋、向いてないんじゃない!」と言えそうだ。

ちなみにその子供、当然のように今は有段者だ。

◎正しい詰み手順の考え方

本題に戻そう。再び実戦の図面を載せる。


放送中、▲4二金△3三玉と動いたので、この後の手順を読んでいた。その対局が終わる前に、もちろん最後まで読み切り、これは先手の勝ちかと思ったもので、手数は長いが決して難しくはない。

解答を書いておこう。
▲4二金△3三玉▲3一龍△2四玉▲3五金△同歩▲同龍△1三玉▲1五龍△1四歩▲2五桂△2二玉▲3三銀△2一玉▲3二金△1二玉▲1四龍まで17手(本譜は、▲1五龍△2二玉▲3一銀とここまで進めて投了した)。

しかし、見ている時は(その後の感想戦でも一緒に考えていて)△2二玉と逃げた時の詰みは良く分からなかった。
▲3一龍から追いかけては行くが、△1五歩と伸びている事と、△4五銀が結構良く利いていて、なかなか詰まない。


ところで、突然だが次の三つの局面を詰めて欲しい。今回の実戦をちょっと変えて作った「実戦の詰み」。すべて7手から9手と短いやさしめの問題。(すぐ下に解答)


最初の問題は、▲3一龍△1三玉▲2二銀△2四玉▲3四龍△同玉▲3五金までの7手詰。
次の問題は、▲3一龍△1二玉▲2四桂△1三玉▲2二銀△2四玉▲3五金△同歩▲同龍まで9手詰。
三つの目の問題は、▲3一龍△1三玉(△1二玉は▲1四桂△1三玉▲1一龍△2四玉に▲1五金)▲2五桂△2四玉▲3三龍(▲3五金が先でも可)△2五玉▲3五金△2六玉▲2三龍まで9手詰。

何が言いたいのかと言うと、このような局面において初手▲3一龍から詰む確率は、▲3二金打から詰む確率に比べたら、問題にならないくらい大きいと言うこと。

おそらくNHK杯の実戦と似たような局面が100個あれば、▲3一龍で詰む局面が90個、▲3三銀で詰む局面が15個、▲1四桂で詰む局面が10個、▲3二金打で詰む局面が5個と言った感じだろうか(合計が100を超えるのは、どちらでも詰む場合が多いため)。

だから読む順序としては、▲3一龍から入ることは正しいことだと思う。

ソフトみたいに一瞬でほとんどの手を読めればどの手から読みを入れても関係ない。しかし、限られた時間の中で、人間はそれほど多くの手を読めるわけではない。だからこそ、最も可能性のある手から読んでいく必要があるし、その可能性のある手というのが、いわゆる「筋」と呼ばれているものだ。

正しい筋を学ぶこと。それが上達する上で最も大切なことである。


※今回、急にミニ感想を書きました。と言うのは、2011年も12月に入り、偶然、この「ミニ感想」、今年はまだ一度も書いていないことに気づいたからです。しかも、ちょうどNHK杯の後、▲3二金打という驚愕の詰み手順をソフトで見て、さらに、放送中も△1四玉というこちらも驚くべき凌ぎ筋を見て、これはミニ感想行きだと思った訳です。

※5手詰将棋の解答・・・▲5一金△3二玉▲4二龍△同玉▲3三金まで5手詰。▲5一金が常識を逆手に取った一着。気づかなかったとしても、詰めるのに時間がかかったとしても悲観することはありません。あなたは正常な感覚の持ち主であり、これからもっと上達していくと考えて良いでしょう!

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