将棋センターの営業を20年以上もやっていると、その中で「短いけれど難しい」と話題になる詰将棋が時々出てきます。そうした詰将棋、特に記録に残している訳ではないのですが、記憶の片隅には残っているものです。
最近、将棋センターを再開し、新たに来始めた若い人達、別に若くなくても良いのですけど最近来始めた人達にも、こうした短手数だけど難しい詰将棋を出し始めました。そこで前々から思っていた事をふたたび考えるようになったと言う訳です。つまり過去の思い出に残る難問5手詰をまとめてみたいと。
最終的に55問をまとめ、小冊子にしようと思っておりその書名も決まっています。
すなわち、「”5手詰”詰将棋の世界」で、副題として、-たかが5手詰されど5手詰-。
書名はもしかしたら世界をワールドにしたりちょっと変更するかもしれませんが、副題を変えるつもりはありません。気に入っているので。まあ昔からある言葉のパクリなんですけど。
さて書名はともかく、今回はその件にからみ5手詰の世界を広く紹介したいと言うことと、これからその小冊子に辿り着くまでの予定を載せるという意味でこの記事を書いています。そこで、大きく二つの章に分けたので必要な箇所だけ読んでもらえればと思っています。
(目次)
(1)あなたはどのレベル?5手詰将棋の五段階・・・・・一般の人に向けた記事です。駒の動かし方を覚えて詰将棋というものをやり始めた初心者の人から、嫌々やっている有段者まで、僅か5手という手数の中に垣間見える詰将棋のさらなる奥深い世界を紹介してみました。
(2)飯能将棋センターで開催、「5手詰」詰将棋大会・・・・・飯能将棋センターに来ている人向けに書いた記事。小冊子にするまでの過程を今後の予定として書いています。大きな流れとしては、7月より毎月14問ずつ難問5手詰を問題として出題し、今年いっぱい解く練習、そして来年から第三ピリオドにおける「解いてもらおう選手権」の開催というものです。解いたものは順位を付けてもらい、それにより最終的に小冊子に入れる55問を決定しようと思っています。
まず、大きなくくりで難易度順に5手の詰将棋を5問出題しましたので解いて見て下さい。制限時間はすべて一問5分です。まずはノーヒントで。解答はこの下の本文に書いていきますが、すぐに見えないように、背景と同じ色で書いています。解答を知りたい場合は、その部分をドラッグして確認して下さい(レベル1のみ駒を動かすのも可)。
レベル1(初心者向け:10級〜12級) レベル2(級位者向け:3級〜9級) レベル3(上級者向け:初段〜5級)
レベル4(有段者向け:初段〜三段) レベル5(マニア向け:四段〜五段)
僅か5手の詰将棋なのに、やさしいものは入門向けの12級から難しいものは高段者やマニアでなければ解けないものまであります。これだけでもその幅の広さ、詰将棋の深さの一端を感じてもらえるのではないでしょうか。
第一問(レベル1) | 第二問(レベル2) | 第三問(レベル3) | 第四問(レベル4) | 第五問(レベル5) |
これは詰将棋というレベルではなく、駒の動かし方を覚えたばかりの人向けに詰みというものを教える為に作成したようなものです。もっともほとんどそのような入門向けの詰将棋の場合には、1手か3手で詰むようになっていますから、このように5手詰で超初心者向けというものはあまりありません。
これも単に5手で詰むように作成しただけなのですが、正直それでも10級の人には難しいかなと思います。
実は最初は、金銀三枚を単に打っていくだけのもの、つまり左の図面をレベル1として作成したのです。しかし打っていくだけでも逃げ場所が結構多い。変化も駒余りなしの同手数になってしまう。しかも、他の詰将棋は皆持ち駒が一枚なのにこれは三枚もあります。これですと、かえって読みづらいかな、と。
で結局持ち駒を一枚にし、逃げ場所も少なくすると第一問のような問題になってしまったという訳です。
解答は、▲3四銀△3二玉▲2三歩成△4一玉▲3二金までの5手詰。
△4三に逃げられてはダメですし、▲3四金と打つのは一枚足りません。このような効率の悪い手さえ指さなければ普通に王手して行けば詰みます。つまり並べて行くだけ。このように妙手が一つも入っていないものは、基本的に詰将棋とは言えません。ちょっと蔑視的に言うなら、いわゆる「詰む将棋」です。
ただ並べて行けば詰んでしまうようなものは、「これは詰将棋じゃない。詰む将棋だ!」と言われてしまうことになります。
でも、もし子供が初めて詰将棋を作ったと言って持ってきた時はこのようなことを言わないようにして下さいね。その時は、大いに褒めてあげて下さい。
またこの上のものは、▲3四銀に対し、二手目が△2二でも△3二でも△4二でも同じく駒が余らず5手で詰みます。どれを書いても正解なのですが、このように変化が駒も余らず同手数になる詰将棋は詰将棋としてはあまり良い詰将棋とは言えません。一般に発表されている詰将棋は、できるだけこうしたキズがないように作られています。
レベル2としたのは「やさしい5手の詰将棋」です。そしてここからが詰将棋と呼べるものになります。たとえば将棋タウンにある「やさしい5手詰」にあるものは、レベル2から中にはちょっと難しいものも入っていますので、レベル3と言えます。
この問題の解答は、▲3二飛成△同金▲3三桂△同金▲2二金打までの5手詰。
この問題は、最後の3手、金頭に打つ手筋の桂が基本です。初心者の人に手筋としてまず教える3手詰ですね。それを2手延ばしたものです。
例題1(5手詰) | 例題2(7手詰) |
でも仮に2手延ばすとしても左の詰将棋、例題1はどうでしょうか?
▲3二歩成△同金▲3三桂。やさしすぎますね。こうなると詰将棋とは呼べません。レベル1の詰将棋とほぼ同等になってしまい「これは詰む将棋だ!」と言われてしまいそうです。
詰将棋というのは、第二問のように大駒を切るから詰将棋になるのです。もっとも実際の詰将棋は切るよりさらに上、大駒を捨てることが多いですね。実戦においては大駒をタダで捨てることはめったにありません。しかしそれを捨てることによってしか詰みがない。だから詰将棋として成立するのです。
という訳で例題2はどうでしょうか?ちなみにこれは5手ではなく7手詰ですけど。
以前、何かの本で見た詰将棋で、確か伊藤果八段の作だったような気はするのですが、確かではありません。
この詰将棋、すぐに▲1三金と打つのは失敗です。また▲2四桂はいかにも筋ですが、△同歩でやはりその効果はありません。
正解は、▲3二飛成△同金▲1三金△2一玉▲3三桂△同金▲2二金打まで7手詰。
フタを開けてみれば極めて明快。最初の二手の進んだ局面というのは、初心者向けの5手詰になります。しかしちょっと工夫することで、もう普通の7手詰に早変わり。ここまで金頭桂の話をしてきましたからすぐに発見できたでしょうが、何の前触れもなく、いきなりこれを出題してみて下さい。初段くらいでも、思わず考え込んでしまうでしょう。
この問題は、浦野真彦八段の「5手詰ハンドブック2」からお借りしました。5手詰将棋のもっとも標準的な詰将棋と言えます。
解答は、▲3三香成△同桂▲1三馬△同玉▲2三金まで5手詰。
このような局面を見ると、詰将棋慣れしている人は、ひと目で馬捨てが見えるものです。ただいきなり捨てると△同桂で香成りには上部へ脱出されてしまいます。ということで手順前後さえしなければやさしい。
では同じような詰将棋をもう一つ、「ラクラク詰将棋」からも出題しておきます(左図)。
こちらの解答は、▲4三飛△同馬▲2四銀△3四玉▲3五龍まで5手詰。
こうした筋ものの詰将棋は、アマチュアでも四段以上あればまずひと目で解けます。詰将棋好きなら棋力的には初段くらいでもひと目で解ける人はいるでしょう。
その”ひと目”がどのくらいかは特に規定はありませんが、10秒か15秒くらいまでであればひと目という言葉を使っているかもしれません。つまり見た瞬間、2〜3秒で詰むこともあれば、長くても15秒くらいまでで解けるということです。
単行本にある多くの5手詰がこのレベル3のようなものと思って良いでしょう。級位者の人達には、じっくり考えて解ける問題、初段くらいの実戦派(いわゆる詰将棋は嫌い)の人達には、少しの間考えれば解けるちょうど良い練習問題と言えるかもしれません。
この第四問は、以前ミニ感想で取り上げています。ですので、すでに解いた方もいるでしょう。と言うことで、もう一問私の作った詰将棋を出しておきます。
この左の詰将棋は第四問よりやさしいと思います。ですからレベル3と4の間くらい。第四問の問題がレベル4の平均的な難易度とすれば、これはレベル4としては一番やさしい部類に入ると考えています。
第四問の解答
▲3五銀△5五玉▲4五馬△6六玉▲6七金まで5手詰。
この左の詰将棋の解答
▲1四角△同龍▲2三銀△同玉▲3三飛まで5手詰。
このレベルの詰将棋になると、プロならひと目で解けるかもしれませんが、アマチュアでは四段くらいあってもひと目で解くのは難しくなります。そして今回、選出している70問はほぼこのレベル4と同等か、より難しいものです。
つまり、私自身、ほとんどの単行本の5手詰ならひと目で解けるのに、思わず凝視してしまう、数分固まってしまう、そんな詰将棋ばかりです。なかには三段位の棋力があってもギブアップしてしまうものもあるかもしれません。
この第五問はどうだったでしょうか?これをひと目で解けたと言う人はプロか、もしアマなら詰棋マニアと言って良いでしょう。但し、たまたま早く解けたという人がいるかもしれませんので、もう一問出しておきます。
これら二題は、どちらも詰パラに載せられた作品で、「80年代ショート詰将棋ベスト200」から紹介しました。
この二問をひと目で解けるなら、もうひと目で解けない5手詰はありません。
第五問は、楓香住氏の作品で、左のものは、金子清志氏の作品。上記本の177ページに載っています。
第五問の解答
▲5六金△同銀▲6五飛△同銀▲6八飛まで5手詰。
6四に落ちられては捕まりそうに見えないので、開き王手から考えてしまいます。しかしいくら考えても詰まない。そのうちに「何だ?この角と金は?」と言うことになり正解を発見できるという訳です。
でもひと目で解ける人たちは、この局面を見ただけで、無意識に「何だ?この角金は!?」と感じられるのでしょうね。
ここに載せた問題の解答
▲6六飛△5七玉▲5五飛△6六玉▲5九飛まで5手詰。
この問題、初手は分かるのですが、三手目が相当打ちにくい。詰め上がりも絶品でした。しかも、桂がジャマ駒と気づいたのは、解いた後でした。
さてこのようなレベル5の難問詰将棋は他にもあります。しかし正直言うと(もちろん狙いを持った素晴らしい詰将棋なのですが)、中空に玉が浮いていたり入玉形で、しかも初手が広く「見ただけで解きたくない」詰将棋は、今回の小冊子からは除外しています。
小冊子の選定基準は、「簡単そうに見えるけどひと目で解けない、人の心理の裏を突いた詰将棋」です。難易度的にはレベル4から5ですが、中段玉や入玉で初手の手が広い作品というのはあまり入れていません。
取っかかりやすくそれでいて十分な時間遊べる小冊子にするつもりです。
最近、時々将棋センター内で難問5手詰を出すようになりました。また、「解いてもらおう選手権をまたやりたいね」などという話も出てきました。
(1)解いてもらおう選手権とは
「解いてもらおう選手権」とは元々は将棋世界の企画としてあったものです。2008年、ちょうど私が将棋世界のレビューを始めた頃の記事で、そこではプロ棋士たちが自作の詰将棋を作りそれを読者が解き、順位を付けるというものでした。個人的には最も面白かった記事の一つなのですが、第二弾が出なかったことを考えるとやっぱり詰将棋企画を楽しみにしている人は少ないのかなとも思ってしまいます。
そしてこれをパクッて将棋センターでもこの「解いてもらおう選手権」を開催したという訳です。この途中経過は2010年の「ミニ感想」に書いています。この段階ではまだ第七回までしかありませんが、その後全部で二十回行っています。
当時は、ほぼ必ず詰将棋を作る人が5人いました。ですから最低5作品。実際には、たまに作って参加する人もいましたので、多い時で8作品。つまり常時5つから8つの問題が出されたということです。
手数も、第3回からすべて5手詰限定になりました。作る方は、「7手まで伸ばせれば楽なのになぁ」と良く言っていたのですが、解く人が嫌がるのですね、長くなって難しくなると。で結局、5手限定になったという経緯があります。
これらを将棋センターに来ている人達に解いてもらい、さらに順位を付け、誰が作ったかを当てると言うものでした。ズバリ賞はなかなか出ませんでしたが、ニアピンは何回かあったように思います。
期間としては、1回が3ヶ月から4ヶ月かかり、数年開催し、それらを十回ずつに分けて2冊の小冊子を作りました。書名は、入間市の鳥から取って、「雲雀(ひばり)」。現在、余分に在庫は置いていませんが、飯能将棋センターの常連になられた方には(その都度印刷して)差し上げます。
(2)5手詰の詰将棋大会
さて、こうした「詰将棋解いてもらおう選手権」もまたやりたいという人が出てきて、作成者と解く人達のめどが立ち再開の機運が高まってきました。そこで、この詰将棋を作る期間に余裕を持たせるという意味も込めて、その前に詰将棋を解く詰将棋大会を開こうとしている訳です。
これは前々から思っていたこと、難問5手詰の小冊子作りが一つの目的です。この難問5手詰に順位を付けてもらい、最終的な55問を選出しようと考えています。
現在、5手の難問詰将棋70問を選定し終えたところです。内訳は、「入間将棋センターの解いてもらおう選手権」から26作品、過去に将棋センターで話題になった詰将棋20作品、「80年代ショート詰将棋ベスト200」などの単行本から8作品、過去にネットで見たものから16作品です。
これらのレベルは、この上のレベル4とほぼ同じくらいの難易度とお考え下さい。一部レベル5と同等の難問も入っています。
この選定した70問を、私が均等に5つのグループに分けます。そして14問ずつ2枚の用紙に印刷し、毎月お配りします。それらをすべて解き、良かったと思うものを1位から10位まで順位を付けて提出してもらいたいのです。なお、問題用紙には、その問題がどこにあったものか、誰の作品かなどは一切書いておりません。
「解いてもらおう選手権」からの選出については、5手詰に決めた第3回以降、優勝した作品全部と、僅差で2位になった作品群です。昔から将棋センターに来ている人達は、この選手権の問題を解いていますし、話題になった詰将棋も知っているものが多いと思います。
なので、順位を決定するにあたり、初めて見て解く詰将棋とは印象が違ってくるかもしれません。以前に解いて感動した記憶があるなら、それらを思い返し順位を付けて下さい。初めて見るものと既出のものが混在しているので多少有利不利が出るかもしれませんが、こうした順位付けは各個人にお任せしたいと思います。
そして1位を10点、2位を9点と点数を付けていき、その14問の10位まで順位を付けます。それを7月から11月まで5ヶ月間行います。
その5ヶ月で出された上位3つを再度集め12月にこれら15問で最終的な「キングオブ5手詰」を決めたいと思っています。そのキングオブ5手詰がどの作品になるのか、今からちょっと楽しみでもあります。
これら皆に解いてもらうものは全部で70問です。ここから、誰からも点数が入らなかった作品、つまり誰も10位以内に入れなかった作品から除外するものを決め、最終的に小冊子に入れる55問を決めたいと思っています。
(3)「5手詰」詰将棋の世界-たかが5手詰されど5手詰-
この小冊子の装丁もほぼ想定しています。すでに二回作っている「解いてもらおう選手権」の詰将棋集「雲雀(ひばり)」と同じような感じになる予定です。
ただ、今回作成するにあたり新たにちょっと考えていることもあります。
それは、この小冊子は、点数の低いものから並べ、五重塔のイメージで、下から10問ずつ解いていくゲーム感覚にするというものです。10問ごとにその階のボス詰将棋を登場させます。
見開きで11問。11問目、22問目、33問目、44問目にその階ごとにボスを設定。そして最後に、ラスボス、つまりキングオブ5手詰の登場という訳。
正直簡単に解けないものばかりのハズです。ですから、5手詰と言えど超重量級の55問です。昔、このサイトつまり「将棋タウン」を作る際、最初に「短編傑作詰将棋」というページを作ったことがありました(今もあります)。当時はここに載せた5手詰も難しいと思ったものでしたが、それも20年近く前の話です。それからの20年、驚愕の5手詰を見て来たと言って良いでしょう。そうしたものを思い出せる限り載せるつもりで選定作業を行ってきました。もっとも、約三分の一は将棋センターに来ている人達のものですから、詰将棋作家のものとは違うかもしれません。しかしそれでもかなり難解な良い詰将棋がたくさん作られて来たのです。他の難問5手詰に引けを取らないくらいに。ですので、そういう意味でも今回の順位付けは楽しみでもあります。
さて、今後の予定ですが、5手詰の詰将棋を解くのが今年2017年末まで。来年早々に小冊子作りを開始します。同時に、第3ピリオドの解いてもらおう選手権も開催します。こちらも今までと同じく5手詰。期間も同じく1回が3ヶ月程度で最低10回は行う予定です。2018年1月から3月までは、「第21回解いてもらおう選手権」になります。今のうちからストックを作っておいて下さい。
詰将棋を作る方、解く方、両方に多くの参加をお待ちしております。
追伸:この小冊子を手に入れた後、もしいつも将棋でバカにされている三、四段の人がいたら、その人にこの5手詰を出して見て下さい。「たった5手だから○○さんには簡単ですよね」と言って。その人が詰将棋マニアでもない限り、思わず考え込んでしまうはずです。「えー!5手詰が解けないの〜?」と言えれば溜飲が下がるかもしれません。